Sパラメータを理解する

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Sパラメータを理解する

著者:Paul Denisowski、プロダクトマネージメント・エンジニア

Sパラメータ(散乱パラメータ)は、回路のRF特性を表す手法です。これらは、回路のポート間で信号が反射、伝送、伝搬される割合を把握するために不可欠です。Sパラメータは、振幅成分と位相成分を含む複素数値であり、信号を完全に表すためにはこの両者が不可欠です。

回路とは1ポート以上を備えたデバイスを指し、各ポートではRFエネルギーの通過、吸収、反射が起きる可能性があります。回路は、それが備えるポート数に基づいて以下のように分類されます。

  • 1ポート:例)アンテナ、ダミー負荷
  • 2ポート:例)フィルター、アンプ
  • 3ポート:例)方向性結合器、ミキサー

回路を解析するには、特定のポートにRFを注入して、そのポート(反射)と他のポートに現れるRFのレベルを測定します。通常、一度に1つのポートに1つだけ信号を注入して、周波数範囲全体で測定値を取得します。

回路(ネットワーク)の解析に通常使用される測定器は、意味が示すとおりネットワーク・アナライザと呼ばれます。ネットワーク・アナライザは、散乱パラメータ(Sパラメータ)を解析することで、電子コンポーネントやシステムで信号がどのように動作するのかを測定します。

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Sパラメータとは?

Sパラメータは、RF回路特性を表す手法です。これらは、回路のポート間で信号が反射、伝送、伝搬される割合を表します。

Sパラメータは、「S」という文字とその後ろの1組の添え字で表記されます。1文字目の添え字は出力ポート、2文字目の添え字は入力ポートを表します。例:

  • エネルギーがポート1から入ってポート1から出る場合、SパラメータはS11と表記されます。
  • エネルギーがポート1から入ってポート2から出る場合、SパラメータはS21と表記されます。
  • エネルギーがポート2から入ってポート3から出る場合、SパラメータはS32と表記されます。

Sパラメータの表記

2ポート回路には、以下の4つのSパラメータがあります。

  • S11 は、入力反射係数です。ポート1での入力信号のうち、反射によりポート1に戻る分の信号を測定します。このパラメータは、インピーダンス不整合により反射される入力信号の割合を示します。
  • S21は、順方向伝送係数です。ポート1での入力信号のうち、ポート2まで伝送される分を測定します。このパラメータは、入力から出力までの信号伝送効率を示します。
  • S12は、逆方向伝送係数です。ポート2での入力信号のうち、ポート1まで伝送される分を測定します。このパラメータは、ポート2に入る信号からポート1がどの程度分離されているのかを示します。
  • S22は、出力反射係数です。ポート2での入力信号のうち、反射によりポート2に戻る分の信号を測定します。このパラメータは、出力のインピーダンス不整合により反射される出力信号の割合を示します。

2ポート回路のSパラメータ

Sパラメータの表し方

Sパラメータは複素数値です。すなわち、振幅成分と位相成分の両方を含みます。振幅は、伝送または反射される信号の大きさを示し、位相は、信号のタイミングの変化を示します。信号がどのように動作するのかを完全に表すためには、両方の成分が必要です。

Sパラメータは、N×N行列で表すことができます。「N」は回路のポート数です。行列の各要素であるSxyは、ポートyからポートxまでの散乱パラメータを表します。Sxyは複素数値なので、行列により以下の情報が提供されます。

  • 回路のポート間相互作用の構造レイアウト
  • 各相互作用に関する振幅/位相の詳細な情報

2ポート回路のN×N行列

Sパラメータの別の表し方にスミスチャートがあります。これは、主に反射係数を表すために使用されるグラフィカルツールです。スミスチャートは、回路のインピーダンスが周波数に伴いどのように変化するのかを可視化するのに役立ちます。反射係数の実数部と虚数部をスミスチャート上にプロットすることでインピーダンス整合の状況が明確に図示されます。これは、反射を最小化してパワー伝送を最適化するためにきわめて重要です。

スミスチャートの例

Sパラメータをカスケード接続することで、接続された回路一連の全体的な応答を予測できます。すなわち、2つ以上の回路を直列に接続したときに、個々のSパラメータを数学的に結合して、結合された回路の総合的なSパラメータを決定できます。Sパラメータをカスケード接続してシステムの動作を予測できるのは、複素表現と行列形式が使われているためです。これにより、複雑な多段システムの解析が可能になります。

まとめ

  • 回路とは1ポート以上を備えたデバイスを指し、各ポートではRFエネルギーの反射、通過、吸収が起きる可能性があります。
  • Sパラメータは、回路特性を定量化するための標準的な手法です。
  • Sパラメータを測定するには、1つのポートにパワーを注入してそのポートと他方のポートでパワーを測定します。
  • Sパラメータは複素数なので、周波数に伴い変化します。
  • 「Sxy」はSパラメータの表記形式です。xは出力ポート、yは入力ポートを表します。
  • 回路を解析するには、ネットワーク・アナライザを使用してSパラメータを測定します。

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