ケーブル損失の測定方法

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ケーブル損失の測定方法

Paul Denisowski、プロダクトマネージメント・エンジニア

同軸ケーブルは、無線周波数(RF)信号の伝送に不可欠なコンポーネントですが、このような信号を減衰させる性質があります。この現象は、ケーブル損失または挿入損失として知られています。損失は、ケーブル長と信号周波数の両方の影響を受け、一般に長さに対しては線形に増加し、周波数に対してはより複雑な関係を示します。

ケーブル損失測定の概要

すべての同軸ケーブルは、通過する無線周波数信号を減衰させます。この減衰は一般に「ケーブル損失」または「挿入損失」と呼ばれます。

ケーブル損失は、ケーブル長と、そのケーブルを通過する信号の周波数に依存します。信号がケーブル内を伝送される過程で、抵抗損失と誘電損失によってそのエネルギーの一部が吸収されます。また、ケーブルのコネクタ、曲がり、損傷などによる不連続性が原因で、一部のエネルギーが信号源に反射し、測定損失がさらに増加する場合もあります。一般的に、ケーブル損失は長さに対して線形に増加し、長さが2倍になると損失も2倍になります。ただし、ケーブル損失と周波数の関係はより複雑で完全な線形ではなく、周波数が高いほど損失も大きくなる傾向があります。

損失は、ケーブルメーカーが提供する重要な仕様の1つで、多くの場合、1メートルまたは1フィートあたりのデシベル(dB)値で表されます。このような損失の周波数依存性は一般的に表やグラフで提示され、多くのRFアプリケーションにおいてケーブル損失量を把握することが非常に重要です。

メーカーの仕様があっても、場合によっては実際のケーブル損失を測定する必要があります。例えば、ケーブルの種類が不明な場合や、コネクタの接続状態または摩耗などの要素が性能に影響を与える場合がこれに当てはまります。ケーブル損失の測定に最も広く使用されるツールは、ベクトル・ネットワーク・アナライザ(VNA)です。

VNAは、ケーブル損失の測定に最も広く使用されるツールです。

VNAによるケーブル損失測定

VNAでケーブル損失を測定する方法は2つあります。

1ポートケーブル測定(S11、反射測定)

  • セットアップ:ケーブルの1つの端をVNAに接続し、他方の端を開放または短絡します。
  • 手順:VNAからケーブルに信号を注入します。信号はケーブル内を通過すると、開放または短絡された終端で反射し、VNAに向かって戻ります。
  • 計算:VNAは反射パワーと送信パワーを比較してケーブル損失を計算します。信号は、ケーブル長の2倍(開放または短絡された終端までと、帰路)を移動するため、測定される損失には往復での全減衰量が含まれます。
  • 利点:この手法では、ケーブルの挿入損失を1つの終端のみで測定できるため、長距離かつ高品質なフィールドテスト用ケーブルは必要ありません。

2ポートケーブル測定(S21、伝送測定)

  • セットアップ:ケーブルの両端をVNAに接続します。
  • 手順:VNAの1つのポートがケーブルを通じて掃引信号を送信し、他方のポートが遠端での信号振幅を測定します。
  • 利点:この手法は、損失が高いケーブルや、両端にアクセスできる場合に適しています。

1ポート測定と2ポート測定

1ポートケーブル損失測定では、信号源またはトラッキングジェネレーターを使用して信号をケーブルに注入します。この信号の周波数は、ユーザーが指定した周波数範囲で掃引されます。ケーブルの遠端は、開放されたままかショートで終端されます。いずれの場合も、信号はケーブル端まで到達した後、信号源ポートに向かって反射して戻ります

信号源ポートでは、反射パワーの量が既知の送信パワーと比較されます。ケーブル損失(dB)は、往復の全減衰量を2で割ったものです。先に述べたように、ケーブルの全損失は、信号周波数とケーブル長に依存します。

信号は信号源に向かって反射して戻ります。

測定を開始する前に、VNAを設定する必要があります。設定は、以下の3つの主なグループに分類されます。

  • 掃引周波数範囲:トラッキングジェネレーター(スティミュラス信号)を掃引する周波数範囲です。ケーブルを使用する周波数をカバーする必要があります。
  • スパン全体の測定ポイント数:ポイント数を増やすと、より詳細な解析が可能になりますが、周波数ポイントが増えるため、1回の掃引にかかる時間も長くなります。
  • 複数の掃引の平均化:ノイズを低減させてより正確な結果を取得するために使用できます。特に損失が非常に高いケーブルに便利です。ただし、掃引回数が増えると、全体の測定時間も長くなります。

設定が完了したら、被試験ケーブルをVNAに接続します。以下の2通りの方法があります。

  • アナライザのポートに直接接続する
  • 短い、位相安定性に優れた高品質のDUTケーブルを使用する

どのような場合にDUTケーブルを使用する必要があるのでしょうか?例えば、ケーブルが筐体内で終端されていたり、タワーやマストに取り付けられていたりする場合など、被試験ケーブルのコネクタにアクセスするのが困難なときに、DUTケーブルが便利です。また、DUTケーブルを使用することで、アナライザポートの摩耗や機械的負荷を軽減できます。測定結果に対するDUTケーブルの影響は、校正時に除去することができます。

DUTケーブルを使用した1ポートケーブル損失測定のセットアップ

校正は、正確なケーブル損失測定のために必要です。これを行うには、オープン標準、ショート標準、マッチ(ロード)標準を被試験ケーブルに順番に取り付けます。これらの標準は、形状の異なる個別標準である場合や、「校正ティー」に統合されている場合があります。手動で取り付けるこれらの標準に加えて、電子校正ユニット(自動校正)も使用できます。このユニットは、接続されたVNAにより制御され、内部標準が自動的に切り替わります。

校正は通常、「指示に従う」プロセスであり、VNAがどの標準をどの順番で、いつ接続するのかをガイドします。これは通常、数分で完了する迅速なプロセスですが、自動校正は手動標準を使用するよりも短時間で校正できる傾向があります。

さまざまな形状の校正標準

校正標準をVNAに接続する方法は、被試験ケーブルをVNAに接続する方法に依存します。例えば、被試験ケーブルをVNAに直接接続する場合は、校正標準もポートに直接接続する必要があります。DUTケーブルを使用する場合は、校正標準もDUTケーブルの端に接続する必要があります。

1ポート測定向けの校正標準の接続

1ポートケーブル損失測定の結果例を紹介します。以下の図では、y軸に表示された損失(減衰量、dB)から、ケーブル損失が1 GHzから5 GHzの周波数に依存していることがわかります。このトレースは以下の2点において一般的です。

  • 減衰量が周波数の上昇に伴い増加している。
  • トレースには、波状のパターン(反射が引き起こす「リップル」)が見られる。

最小値と最大値を平均化することで平均ケーブル損失を定量化できます。この例では、最小値が-1.2 dB、最大値が-3.5 dBなので、損失は-2.35 dBになります。

1ポートケーブル損失測定の結果例

次に、2ポート測定について説明します。2ポート測定は、以下の2つのケースにおいて1ポート測定よりも好まれます。

  • ケーブルの両端に容易にアクセスできる場合。
  • ケーブルの損失が非常に高い場合(20 dB以上)。

損失が高くなると、1ポート測定の確度は低下する傾向があります。

多くの2ポートケーブル測定では、アナライザの両方のポートに被試験ケーブルを直接接続するだけで済みます。ただし、DUTケーブルを使用して被試験ケーブルをアナライザに接続する場合は、DUTケーブルが測定に与える影響を除去するためにノーマライゼーションを実行する必要があります。

DUTケーブルを使用する際のノーマライゼーション

2ポート測定でのケーブル損失も同様に周波数に依存しますが、1ポート測定と比較するとトレースのリップルがほとんどありません。これはケーブルの両端がその特性ピーダンスで終端されているためです。ケーブルの両端をVNAに接続することが現実的でなかったり適切でなかったりする場合が多いものの、一般的に1ポートケーブル損失測定よりも2ポートケーブル損失測定の方が好まれます。

まとめ

  • すべての同軸ケーブルは、通過するRF信号を減衰させます。この減衰は一般に「ケーブル損失」または「挿入損失」と呼ばれます。
  • ケーブル損失は、ケーブル長や周波数の増加に伴い増加します。
  • VNAは、ケーブル損失を測定するための代表的なツールです。
  • VNAでケーブル損失を測定する方法には、次の2通りがあります。
    • 1ポート反射(S11)測定:ケーブル端を開放または短絡した状態で実行します。
    • 2ポート伝送(S21)測定:ケーブルの両端をVNAに接続して実行します。
  • ケーブルの損失が大きい場合や、両端にアクセスできる場合は、2ポートケーブル損失測定を選択するのが適切です。

ケーブル損失測定についてご不明な点がございましたら、弊社のエキスパートにお問い合わせください。

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