マルチフェーズ降圧コンバーターを使用した高速SoCのパワーデザインの解析

機能の増加、処理能力の向上、データレートの高速化のために、高速システムオンチップ(SoC)のパワーデザインは困難さを増しています。最近のCPU、GPU、FPGA、ASICなどでは、さまざまな機能ブロックに給電するためのパワーレール数の増加に伴い、電源投入時と電源を落とす際に精密なシーケンス制御が必要になっています。また、SoC内部の電力損失を減らすため、電源電圧レベルも低下しています。パワーインテグリティー要件はさらに厳格になり、パワーレールで必要とされる電源電流はさらに大きくなっています。大電流パワーレールでは、マルチフェーズ降圧コンバーターの使用がますます一般的になっています。これらのコンバーターには多くの利点がありますが、パワーデザインと検証テストにあたってはさまざまな課題が生じます。

MXO 58によるマルチフェーズ降圧コンバーターデザインのパワーインテグリティー解析
MXO 58 8チャネルオシロスコープによるマルチフェーズ降圧コンバーターデザインのパワーインテグリティー解析(提供:Texas Instruments)
ライトボックスを開く

課題

マルチフェーズ降圧コンバーター(インターリーブ型コンバーター)の各フェーズには、少なくとも1組のスイッチングトランジスタと1個のインダクターが存在します。マルチフェーズ特性の利点を活かすため、フェーズのオン時間は互いにずらされます。高負荷の定常状態動作では、すべてのステージがアクティブになり、相互のずれが均等になることで、電源電流がステージ間で均衡します。その結果、インダクター電流も位相シフトされ、電源電流と電源電圧のリップルが最小化されます。電流レベルが高い場合、導通損失が支配的になります。この場合、マルチフェーズ降圧コンバーターは、全電流が1つのステージでなく複数のステージに分配されるため、シングルコンバーターよりも効率が高く、発熱が少なくなります。

コントローラーベースのマルチフェーズ降圧コンバーターの場合、高負荷期間中はステージを動的にアクティブ化し、低負荷期間中はステージを減らすことができるため、さらに高い効率を実現できます。

マルチフェーズ降圧コンバーターは、負荷のステップに対する応答が速いという利点もあります。フェーズのオン時間が互いにずれているため、マルチフェーズ降圧コンバーターは、負荷のステップの直後のフェーズでパルス幅変調(PWM)信号を調整することにより、負荷のステップにすばやく応答できます。スタック型デザインでは、1次コントローラーがすべてのフェーズに対するPWM信号を供給します。このデザインでは、ステージ間で定義済みの位相シフトが維持されます。コントローラーベースのマルチフェーズデザインは、動的にフェーズを調整したり、対応するステージのPWM信号をオン/オフしたりすることで、負荷の過渡変動によるアンダーシュートやオーバーシュートをさらに減らすことができます。

マルチフェーズ降圧コンバーターは、高速SoCパワーデザインの性能と効率を上げるための強力なツールではありますが、検証やデバッグのためのテストを困難にする原因でもあります。多様な静的負荷条件や動的な負荷ステップシナリオでのフェーズ管理の解析が必要になるからです。

マルチフェーズ降圧コンバーター1
マルチフェーズ降圧コンバーターの回路図と、2つのアクティブフェーズを使用した定常状態動作での対応する電圧および電流
マルチフェーズ降圧コンバーターの回路図。専用のマルチフェーズコントローラーにより最大限の柔軟性を実現したもの(左)と、1次/2次コンバーターを備えたスタック型トポロジーのもの(右)。

アプリケーション

マルチフェーズ降圧コンバーターによる代表的なパワーデザイン測定としては、以下のものがあります。

  • 効率測定
    システムは、マルチフェーズ降圧コンバーターの効率測定を、さまざまな負荷条件で、代表的ないくつかの動的負荷シナリオを使用して実行します。
  • 高速SoCの電源電圧のパワーインテグリティー解析
    さまざまな静的負荷条件と動的負荷ステップシナリオでの測定により、パワーレール電圧が、ノイズ、リップル、アンダーシュート、オーバーシュートに関する必要な許容値を満たすことを確認します。測定は通常、タイムドメインと周波数ドメインで実行されます。
タイムドメインと周波数ドメインでのパワーインテグリティー解析
タイムドメインと周波数ドメインでのパワーインテグリティー解析。2.24 MHzのスイッチング周波数とその高調波が示されています。
ライトボックスを開く
  • マルチフェーズ降圧コンバーター内部のステージのフェーズ解析
    静的負荷条件と定義された負荷ステップシナリオで測定を行うことで、マルチフェーズ降圧コンバーターの各ステージが低遅延で負荷ステップに応答することを確認し、全ステージにわたるフェーズ管理全体を検証します。
動的負荷ステップシナリオでのフェーズ調整とPWMトラック
160 A負荷を連続的にオン/オフする動的負荷ステップシナリオでのフェーズ調整とPWMトラック。波形とPWMトラックは、負荷ステップに対するフェーズの即時応答を示します。
ライトボックスを開く
MXO 58のA/B/Rシーケンストリガを使用した160 A負荷ステップでの電圧オーバーシュートの測定。
負荷過渡変動がマルチフェーズ降圧コンバーターのスイッチングサイクル内のどの位置で起きるかによって、オーバーシュートが異なります(提供:Signal Edge Solutions)
ライトボックスを開く

ローデ・シュワルツのソリューション

MXO 58シリーズ オシロスコープには、合計8つのアナログチャネルがあり、帯域幅は最大2 GHz(インターリーブモード)です。R&S®MXO5-B1オプションを使用すると、8つのアナログチャネルはそのままで、新たに16のデジタルチャネルを追加できます。MXO 58は、組み込みのハードウェアアクセラレーションにより、最大捕捉レート450万波形/秒、最大FFTレート45,000回/秒という比類のない速度を実現しています。

12ビットの分解能(HDモードでは最大18ビット)との組み合わせにより、DCパワーレール上の小さい障害をきわめて正確に測定できます。

MXO 5は、強力で汎用的なデジタルトリガシステムを標準装備しており、基本的なエッジトリガに加えて、A/B/Rシーケンストリガや強力なゾーントリガといった豊富な機能を提供します。ゾーントリガを使用すれば、さまざまなソース(捕捉波形、演算波形、スペクトラム表示など)からのユーザー定義ゾーンの組み合わせでトリガすることで、特定のイベントを捕捉できます。

MXO 5Cと同様、ディスプレイなしの構成も用意されています。コンパクトな2 HU形状なので、自動テストアプリケーションでのユニットのリモート制御に最適です。

RT-ZPR20 パワーレール・プローブとPicotest J2115A
RT-ZPR20 パワーレール・プローブとPicotest J2115A 同軸アイソレーター(提供:Signal Edge Solutions)
ライトボックスを開く

パワーレール上の摂動の測定には、R&S®RT-ZPRのような専用のパワーレール・プローブを使用するのが最適です。これは1:1のプローブなので、この測定に必要な感度を備えています。プローブにはDCメータが内蔵されているので、パワーレールのDC電圧を簡単に測定して、オフセット回路で自動的に減算することができます。これにより、MXO 5で最適な感度を利用して、パワーレール電圧の実際のDC値を表示しながら、パワーレール上の障害を正確に測定することができます。電源電流が大きいパワーデザインの場合、テストセットアップ内のグランドループのために測定誤差が生じる場合があります。R&S®RT-ZPRとPicotest J2115A 同軸アイソレーターを組み合わせることで、このようなグランドループ誤差を大幅に低減できます。

スイッチノード電圧を測定する際には、マルチフェーズ降圧コンバーターの各ステージで高い電流レベルから生じるグランドループ効果も考慮する必要があります。R&S®RT-ZDなどの差動プローブは、これらの効果を除去する効果があるので、このような測定に最適です。

R&S®RT-ZCxx 電流プローブとロゴスキーコイルを使用することで、パワー効率測定で電流を測定し、瞬時パワーを計算できます。

まとめ

MXO 5およびMXO 5Cシリーズ オシロスコープは、高速SoCパワーデザインのパワーインテグリティーの解析に最適です。最大8つのアナログチャネルと16のデジタルチャネルに、さまざまな種類のプローブを組み合わせて使用することで、ノイズ、リップル、アンダーシュート、オーバーシュートを優れた感度で正確に測定できます。比類のない測定速度と強力なトリガシステムにより、パワーレールの障害をタイムドメインと周波数ドメインで効率的に検出して、マルチフェーズ降圧コンバーターのすべてのステージのPWM信号を容易に解析できます。